怖くても逃げなくなった日——彼女を前に“覚悟”が生まれた瞬間

📘 第9話|料理の味を覚えていないほど緊張した夜
“あの日だけは、呼吸の仕方を忘れた。
思い出すたび胸がギュッと締まる──僕のクライマックス直前の日。”
■ 今でも鮮明に覚えている。
第9話だけは、書いていると胸がズキッと痛む。
他の回は落ち着いて振り返れるのに、この日だけは “当時の手の震え” が戻ってくる。
心の奥が熱くなって、喉が乾いて、呼吸が浅くなる。
あの日の僕は、“恋愛の初心者”でも“36歳”でもなく、
ただひとりの女性を前にぐちゃぐちゃに揺れていた男だった。
■ 面談で言った「次…伝えます」の重さが、24時間かけて襲ってきた
帰宅してからの夜、布団の中で天井を見つめながら、何回も自分に問い詰めた。
(本当に…言う? 言える?
言うって言ったけど、“言う”って…何を?)
いやほんとこれ。
なんであんな落ち着いた声で言えたんだ僕。
面談室の空気に流されただけじゃない?
明日になったら突然ヘタレるんじゃない?
お前、明日手汗でスマホ落とす未来見えるけど大丈夫?
感情の渋滞。
■ 告白前夜は、人生で一番情緒が壊れてた
眠れなかった。いや正確には、寝ても数分で目が覚めた。
心臓の音が、胸の内側でずっと暴れていた。
(好きとか嬉しいとか以前に、ただただ怖い。
怖いんだけど、会いたい。
会いたいけど、逃げたい。
逃げたいけど、伝えないと一生後悔する。)
感情ジェットコースターかよ。
36歳男性のメンタル、もっとしっかりしてくれ。
■ 当日の朝、鏡を見て驚いた
顔が死んでた。いや正しく言うと「魂半分抜けてた」。
(今日…無理じゃない?
なんか顔色悪いし。呼吸浅すぎだし。手も震えてるし。
これ、恋愛じゃなくて別の病気なんじゃない?)
完全にテンパってた。
■ 仕事中、何度も心臓止まるかと思った
朝会議。同僚が何か話してるけど、内容が頭に入ってこない。
(今日言うんだよな、僕。
言わなきゃいけないんだよな…いや、誰が決めた?
僕だよ!? 僕が勝手に決めたんだよ!?)
自分で決めたのに、自分が一番動揺してる。
愛って怖い。いや、普通に怖すぎる。
■ 退勤して駅への道を歩く
会社を出て、駅までの道を歩いているのに、世界の音が全部薄くなっていく。
本当にこれ、不思議なんだけど、
- 街の音が全部“遠く”なって
- 時間だけがやけに“ゆっくり”流れて
- 視界の中心だけがやたら“クリア”になる
映画のクライマックス前の映像みたいな世界だった。
(ああ、今日で何かが変わってしまう。)
心臓がズクズク痛む。喉が渇く。手のひらは汗で湿っていた。
それでも、もう後戻りはできなかった。
■ 待ち合わせ場所に近づくたびに、身体が言うことを聞かなくなる
早歩きで向かっているのに、足は妙に重い。
“前に進もう”とする心と、“逃げろ”と叫ぶ脳が、
頭の中でバチバチに殴り合っていた。
(怖い。怖いよ。でも伝えるんだろ? yuuki。)
自分で自分に言い聞かせる。
何度も深呼吸した。でも、息がうまく入ってこない。
■ 会う直前、僕は心の中で叫んでた
もはや心の声というより、ほぼ絶叫に近かった。
(今日言わなきゃ一生後悔する!
ビビって逃げた未来の自分が一番嫌いだ!!
逃げるな。進め。僕なら…いける!!)
いや、メンタルトレーニングかよ。スポ根漫画の主人公かよ。
でも、そうでもしないと立っていられなかった。
■ そして——
彼女の姿が見えた瞬間、心臓が“キュッ”と縮んだ。
あの日の夕方の空気の匂い、街灯の明るさ、
彼女が僕を見つけたときに、少しだけ目尻をゆるめて笑ったこと。
全部、今でも鮮明に思い出せる。
時間が止まったみたいだった。
胸がぎゅっと音を立てるくらい締まった。
(ああ……僕はこの人に“伝えたい”んだ。)
その瞬間、僕は覚悟した。
──このあと数分の自分次第で、
“逃げる未来”か“掴みにいく未来”かが決まる。
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